この企画は、現在米国に亡命中のドゥンドゥップ・ワンチェン氏を招いた講演および家族が氏と再会するまでの亡命生活を記録したドキュメンタリー映画『ラモツォの亡命ノート』(制作/小川真利枝)の上映を行ったものです。
もともとは2020年に開催を計画していましたが、コロナ禍の影響で特別ゲストのドゥンドゥップ・ワンチェン氏の来日が叶わず延期されていました。ようやく渡航ビザが発行され、日本各地で巡業講演ができることとなりましたので、大阪での講演主催を当会が担当する形で本企画が3年越しに開催されました。
特別ゲストのドゥンドゥップ・ワンチェン氏について簡単に紹介しておきます。
ドゥンドゥップ・ワンチェン氏は、北京五輪を控えた2007年に「チベットに対して民族差別的な弾圧を行っている中国が平和の祭典である五輪を自国開催することについてどう思うか?」「チベットに十分な自由があると言えるだろうか?」など百人以上のチベットに暮らす人々に意見を問いかけるインタビュー動画を撮影し発表しました。また、それによって中国当局に政治犯として拘禁・拘束されていました。2017年になって、ようやく米国への奇跡的な亡命に成功し、先に亡命していた家族と再会。現在は米国にて亡命生活を行っておられます。
さて、当日の様子です。
会場には、先般当会の特別顧問にご就任いただいたばかりの真宗木辺派本山錦織寺前門主・木邊圓慈猊下にもご来駕を賜り、共にお祈りいただきました。
また、チベットを応援する全国地方議連より四名の地方議員の方々も出席されました。
続いて、天安門事件の犠牲者を偲んだ詩の朗読が行われました。当日は奇しくも6月4日。「六四天安門事件」の記念日でもあったので、朗読は劉暁波『十七歳へ〜天安門事件二周年追悼〜』を染井吉乃氏(ひめじ芸術文化創造会議)が行いました。
そしてドキュメンタリー映画『ラモツォの亡命ノート』の上映。あいにく運営上の不手際で後方座席の方から字幕が見えにくいなどのトラブルが発生。上映を一時中断し機材の調整をする一幕がありましたが、それ以外はスムーズな上映となりました。
映画では、夫の無事を祈りながら前向きに娘たちと生き延びようとする妻・ラモツォの様子が記録されており、その単なる「可哀想な政治犯の妻」にとどまらない人間力、希望を胸に運命を切り開こうとする勇気、そしてどんな苦境にあっても笑顔で乗り越えようとするチベット人の気骨が在り在りと描かれています。
意外なことにドゥンドゥップ・ワンチェン氏はこの映画をこの時に初めて観たとのこと。このことは家族との再会に立ち会った小川真利枝氏も知らなかったようで、随分と驚いておられました。
映画上映の後に行われた講演では小川氏を聞き手として、ドゥンドゥップ・ワンチェン氏により投獄から亡命成功までの顛末が語られました。
特に政治犯刑務所での強制労働の実態については、ご自身の経験を通じて「メイド・イン・チャイナ製品の裏側にそういうものがあることを知ってほしい」と、単なる嫌中ではない根本的な人道的理由での不買運動の必要性を訴えました。
さらにチベット地域における文化的ジェノサイドと呼ぶべき〝教育の中国化〟や宗教弾圧についても言及し、チベット語やチベット仏教などのチベット文化が消失させられそうになっている現状を伝えました。
講演の終盤では会場からの質疑にも答え、インタビュー動画の製作と公開を自身の安全より優先したことについての質問に対しては「生命を賭してでも、果たすべき使命だと感じていた」と述べられました。
また、小川氏から語られた、取材中に妻・ラモツォと娘たちが夫・父の無事を祈り気丈に待っていた様子。そして、ドゥンドゥップ・ワンチェン氏自身の視点からの家族への思い。宗教や文化を超越する普遍的な家族の絆に涙する参加者も居られたようです。
閉会の挨拶は上田代表。開催にご尽力いただいたすべての方々への感謝と、今後の活動に向けての抱負が語られました。
そして閉場後は別室に移動し、上田代表および林事務局長がドゥンドゥップ・ワンチェン氏、小川氏らとともにメディアの取材に応じました。チベットの実情と日本からの支援の必要性や宗教者がチベット問題に関心を持ち活動することの意義など、およそ1時間に渡ってお話ししました。
会場をご提供いただいた金光教大阪センターの皆さま、会場手配にご尽力くださった当会顧問の三宅善信先生(金光教)、そしてご来場いただいた方々、開催にご協力くださったすべての方々に感謝申し上げます。
写真撮影:上田成昭(ひめじ芸術文化創造会議)