「宗教新聞 平成29年(2017年)2月20日(月)」号より許諾を頂き転載しました。

 

チベット亡命政権主席大臣が講演 ウイグル会議カーディル総裁も参加

 インド・ダラムサラにあるチベット亡命政権のロブサン・センゲ主席大臣が2月11日に来日し、12日、東京都内のホテルで「チベットの悲劇、今後の道は?」と題し講演、「チベット問題を理解しなければ国際社会は中国を理解できない」などと述べた。講演会を主催したのは「ダライ・ラマ法王日本代表部(ルントック代表)」と「宗派を超えてチベットの平和を祈念し行動する僧侶・在家の会(スーパーサンガ、吉田正裕代表)」。

 ルントック代表の挨拶に続いて、来賓の世界ウイグル会議ラビア・カーディル総裁が次のように挨拶した。
 「中国は東トルキスタン(ウイグル)、チベット、南モンゴルの占領を続け、抑圧、弾圧、虐殺を行い、我々3民族は生きる場を失いかけている。美しい文化が中国当局に抹殺されているので、我々は命をかけて守ろうとしている。チベットでは僧侶の焼身抗議を無視し弾圧した人物が昨年、今度はウイグル自治区に赴任した。彼はウイグル人が集中している南部を視察し、モスクや寺院、教会の破壊を始めた。その数は数千で、3カ月でモスクの70%が破壊された。当局はウイグルを弾圧するため反テロ法を2015年に制定し、合法的にウイグル人などを抹殺するようになり、数万人を投獄し、若者を公開処刑している。300以上の交番が作られ、ウイグル人はそれを砲台と呼んでいる。私たちが中国に要求しているのは平和で安全、自由な生活、民族のアイデンティティーの保持だが、当局は全く受け入れず、我々は命がけの抵抗運動を続けている」

 大きな拍手を受け登壇したセンゲ主席大臣は、日本語で挨拶したのち、次のように講演した。
 「中国を理解する上でチベット問題は不可欠だ。1959年に中国がチベットを侵略し、ダライ・ラマ法王がインドに亡命した時、我々は国連などの国際機関にチベットの現状について訴えたが、国際社会は、侵略は例外的なことで世界にとって大きな問題ではないと答えた。
 昨日、安倍首相がトランプ米大統領と会談し、尖閣諸島が日米安保の範囲にあることを確認したが、中国が尖閣諸島に触手を伸ばすまでは、日本人もチベット問題は日本に関係ないと思っていたのではないか。フィリピンやインドネシアの人々も南洋諸島の問題を考え始め、東シナ海の問題をめぐるアジアの人々も同様だ。南インドでも中国はパキスタン、スリランカ、ミャンマー、バングラディシュに進出し、ネパールは中国の衛星国になっている。アセアン諸国では、カンボジア、ラオスに中国は進出し、人々は何が起きているのか考え始めている。もし1959年に国際機関や世界の仏教国が中国に対する警戒を強めていれば、壁のようなものを築いていたはずだ。中国は既にチベットに30の軍事滑走路など多くの軍事施設を築いている。
 20年来、香港や台湾の友人は、同じ漢民族なのでチベットのような問題は起きないと言っていたが、彼らは今、チベットのようになりたくないと言う。2015年、中国は香港に、一国二制度を脅かすような法の承認を強要した。中国は1951年にチベットと17か条協定を結び、一国二制度のような制度を設けたが、その後、チベットを侵略し、国の一部にしてしまった。89年にチベットでは厳戒令が敷かれた後、北京でも同じことが起きたので、中国はチベットで起こることは北京でも起こると警戒している。中国はアフリカ各国の有力者を買収し、収奪のためのインフラ建設を行っている。それは50年前からチベットでしてきたことだ。
 私が中国を恐れない理由は、チベットと中国の歴史は1000年にも及び、中国は数回チベットを占領したが、チベットが中国を支配したこともあるからだ。また、チベットには高く、美しい山々がある。チベット人は標高3000メートルの高地で暮らし、小麦ができないので大麦を栽培していた。低地で小麦を作り、牧畜をしていた中国人は、長い間、チベットに来ることができなかった。今、多くの漢民族がチベットに働きに来ているが、冬になると山を下りている。当局はチベット人と漢民族との結婚を奨励しているが、その数は少ない。
 私たちはチベットの古い歴史と文化に誇りを持っている。過去数十年、国際社会はチベットの正義を無視してきたが、私たちは真実は勝つと信じてきた。アジアにとってチベットが重要な理由は、第一に氷河の埋蔵量が北極、南極に次いで多く、アジアの水源であること。10の主要河川の源流があり、14億人がチベットに源流を持つ川の恩恵を受けている。今、中国はこうした川に数十のダムを建設し、14億人に対して川の支配権を行使しようとしている。ダムは極めて強力な武器でもあり、下流の人たちの生活を支配できる。
 中国は世界の人口の19%を占めながら、淡水は世界の11%しかないので、8%は常に水不足の状況にある。中国は水不足を解消するため川の流れを変え、下流域の人々が破滅的な影響を受ける恐れがある。過去百年でチベットの氷河は半分になり、NASAは2100年には今の氷河の75%が失われると予測している。その原因は、都市化、産業化、大量移民、鉱物採取、森林伐採である。各国にとってチベット支援は自国を助けることでもある。
 私の両親はチベット生まれだが、私はチベットへ入ることが許されない。父の願いはチベットで死ぬことだったが、亡命地で亡くなった。チベットに残っていた伯父は、私たちに会えずに亡くなった。
 チベット亡命政権は非暴力、中道政策を掲げている。チベットの占領、抑圧は許し難いが、中国は一国であると認めたうえでの自治、自由を求めるのが中道政策だ。これは中国も受け入れ可能で、米国と同じように日本政府も支持できると思う」

 質疑応答の後、スーパーサンガ副代表の小林秀英師が、「日本人がもっと自信を持ってチベット問題に取り組めば、中国に対しても正しいことが言える政治家が出てくるだろう。これからも手を携えてチベットをはじめウイグル、モンゴルの問題にかかわりたい」と挨拶して閉会した。