1949年、中国共産党人民解放軍がチベットに侵攻、占領を開始。1959年にはダライ・ラマ法王がインドへ逃れて亡命政府を樹立しました。法王に続いて、多数のチベット人が亡命し、難民は今も増え続いています。現在、難民の数は、亡命中に生まれた人を含めて合計15万人以上となっています。

 こうした亡命・難民の問題とともに、本土におけるチベット人は半世紀以上の統治政策や文化大革命によって甚大な人的・物的・文化的被害をこうむり続けています。現在のチベット本土・亡命地においては、次のような多くの問題が複合的に絡み合いながら、深刻さを増しています。

  • はるか昔から大切に伝えてきた文化や伝統の維持継承が危機的な状況にあります。
  • 教育・言語など民族としてのアイデンティティが抑圧されています。
  • 慈悲のこころが息づく暮らしとともにあった信仰を奪われていくのに何も言えません。
  • チベット人が居住していた地域へ、漢民族が意図的に大量移住してきています。
  • 大量移住によって出来た街はチベット人が働くことがむづかしい格差社会です。
  • チベット人の正当性を主張したくても司法機関が十分に整備されていません。
  • 開発の名のもとに豊かな自然環境が破壊され、貴重な動植物が失われています。
  • 多くの核施設や軍事施設が住民に知らされることなく作られ続けています。
  • 国境を設けずに長年育んできた友好な関係が領土問題とされ、ゆらいでいます。
  • 現状に耐えられず、亡命したチベット人にもさまざまな問題が山積しています。
  • 就労・教育・貧困・エイズなどが問題になっています。

 これらの諸問題を背景に、本土においても亡命地においても、チベット人たちを取り巻く状況は苦難を増し、日々の暮らしが破綻する危機に直面しています。中でも、チベット人にとって精神的な拠り所である仏教への信仰が十分に認められない状況は、チベット人の悲嘆をいっそう深めています。

 私たち日本人も、仏教を信仰し、仏教の慈悲の精神を深く内面化する文化と暮らしを育んでまいりました。慈悲の仏である観世音菩薩の化身たるダライ・ラマを戴くチベット人と、慈悲の心において、私たち日本人は兄弟であり姉妹であるといえましょう。今、その兄弟が苦しんでいます。姉妹が泣いています。この魂の同胞ともいえるチベット人が危機に瀕している現在、私たちは、その苦しみを理解し、悲しみを共に悲しみ、 慈悲の心をもって平和的な解決の成就を祈念してまいりたいと思います。