スーパーサンガ会報誌、平成二十七(2015)年夏号より、映画『ルンタ』の公式広報をご紹介いたします。

lungta

 チベットでは中国の圧政に対して自らに火を放ち抵抗を示す〝焼身抗議〟が後を絶ちません。その数百四十一名(二〇一五年三月三日現在)。今も多くの命が失われています。インド北部の町ダラムサラ。チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ十四世が暮らすこの町に、三十年間住み続け、建築家、NGO代表として故郷を失ったチベット人を支援する日本人がいます。中原一博(六十二歳)。〝ダライ・ラマの建築家〟と呼ばれる彼は、日本ではあまり報道されないこの〝焼身抗議〟をダラムサラからブログで発信し続けています。監督の池谷薫は一九八九年、テレビドキュメンタリーの取材で中原と出会い、四半世紀の準備を重ねて本作を完成させました。

ブラッド・ピット、リチャード・ギア、マーティン・スコセッシ、ハリウッドも支援するチベット人の〝非暴力の闘い〟とは?

 映画の題名「ルンタ」とは、チベット語で〝風の馬〟を意味し、天を駆け人々の願いを仏神のもとに届けると信じられています。映画はこのルンタに導かれ、中原を水先案内人として「慈悲」や「利他」といったチベット人の心を探る旅に……。決死の抗議活動を外国メディアの前で行った青年僧、長期間監獄に入れられても仏教の教えを頑なに守る老人、厳しい拷問を耐え抜いた元尼僧など、不屈の精神を持つチベット人たちの声を拾いながら、彼らの熱き想いを映像に刻み込んでいきます。暴力によるテロが世界を席巻する今、非暴力の闘いに込められたチベット人たちの、誇り高いメッセージ。あなたもぜひ耳を傾けてください。

〝焼身抗議〟の背景

映画『ルンタ』より 一九四九年、中華人民共和国を樹立した毛沢東は直ちにチベットへ侵攻。二年後、チベットは事実上、中国の支配下に置かれた。一九五九年、ダライ・ラマ十四世はインドに亡命。後を追うように約十万人のチベット人たちがヒマラヤを越えてインドやネパールに亡命した。二〇〇八年、北京オリンピックを目前に控えチベット全土で平和的デモが発生すると、中国当局は容赦のない弾圧を加え、ラサだけでも二百名を超えるチベット人が命を奪われた(亡命政府発表)。これによりチベット人の中国政府への不信感は決定的なものになり、今も増え続ける〝焼身抗議〟の誘因となった。その他、中国政府の言語教育政策や遊牧民の定住化、天然資源の採掘に伴う環境汚染、チベット人に対する移動の制限なども〝焼身抗議〟の背景に挙げられる。

「ルンタ」を観ての感想

 映画を観た、池谷さんの作品を見せてもらったと言うだけではすまない、事実の重さを体験したと言えばいいのでしょうか、新聞の片隅に報道される〈情報〉ではない、焼身という行動の奥深い〈現実〉を、中原さんという一人の日本人を通して、はじめて知りました。焼身は自殺という言葉では捉えられない行動だということを、一人でも多くの人に知って欲しいと思います。チベットの自然の美しさ、同時代の日本人とは異なったチベットの人々の暮らしぶり、それに中原さんという男の稀有な生き方、それらを記録し表現することが、そのまま中国という国家へのプロテストにつながっています。

詩人・谷川俊太郎さん

 草原に咲く花を手折ろうとした私を、「それは、命を奪うことだよ」と止めたのは、チベットの友だった。その彼らが自らに火を放つのは、信念を伝えようとする究極の行為なのだ。この映画で私たちは、〝チベットの心〟を知るだろう。

作家・渡辺一枝さん

 非暴力と祈りの力を信じて、自らの肉体に火を放つ〝焼身抗議〟。その崇高さに言葉を失いながら考える。民族とは、文化とは、自由とは、決して抹殺できない、また絶対にさせてはいけないものだ、と。隣人として、同じ人間として、私たちに出来ることはもっと何か無いのだろうか!?

音楽評論家・湯川れい子

作品情報
2015年/日本/カラー/DCP/111分/16:9/5.1ch/日本語・チベット語
企画・編集・監督:池谷 薫(「延安の娘」「蟻の兵隊」「先祖になる」)/製作:権洋子/撮影:福居正治/音響構成:渡辺丈彦/キャスト:中原一博/製作・配給:蓮ユニバース
映画「ルンタ」公式サイト http://lung-ta.net/
中原一博ブログ http://blog.livedoor.jp/rftibet/
 
劇場情報
下記の公式サイト[劇場情報]をご参照ください
http://lung-ta.net/theater.html