このコーナーでは、様々な書籍をご紹介します。本書は、ダライ・ラマ一四世が、子どもたちに向けて書いた絵本。ご自身が幼少期に母親から学んだ「いつくしみの種」について語ります。

こころにいつくしみの種をまく〜ダライ・ラマ14世から子どもたちへ〜

「こころにいつくしみの種をまく〜ダライ・ラマ14世から子どもたちへ〜」
(著)ダライ・ラマ14世
(イラスト)バオ・ルー
(翻訳)久山太市
(監修)石濱裕美子
評論社(児童図書館・絵本の部屋)
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2021年4月20日 発売
大型本 32ページ
1,500円(税別)
ISBN: 978-4-566-08070-6

初めてこの絵本と出会った時、私はたまたま同じくダライ・ラマ法王一四世の瞑想の本を読んでいました。その本の中で法王猊下は慈悲とは育むものであること、しかもそれは努力して育てるものであると繰り返し述べています。

このことは法王猊下の説法に親しみ、チベット仏教を修学している人には当たり前のことかも知れませんが、そうでない(私のような)人にとっては、とても新鮮です。とりわけ宗教的な生き方とか、道徳的な生き方について、学んだり触れたりする機会を失っている日本人にとっては、意外で、意表を突かれるとさえ言ってよいかもしれません。

この絵本は、そんな「慈悲の育て方」について、法王猊下が世界の子どもたちに向けて書いたものです。ご自身の幼少期からダライ・ラマ法王としての歩みを顧みつつ、「いつくしみの種」がどのように芽吹き、どのように育てられていくかが、温かな絵とともに語られます。

ところでチベット仏教には、「心の訓練(ロジョン)」という長い伝統があります。法王猊下は今も毎日この瞑想を実践していると伝えられます。祖国を失い、同胞を傷つけられてもなお、平安な心で生きることは極めて困難なことであるはずです。しかし、あの快活で明るい笑顔からは、怒りや憎しみ、迷いや絶望は感じられません。絵本にも朗らかに描かれるあの天真爛漫な笑顔は、困難な日々にも弛まず続けられた「心の訓練」によって生まれてくるのでしょう。

この絵本の中でも、心が悪い方向でなく良い方向に育つために大切なことが語られています。それは単なる常識的な子育て論をこえた、チベット仏教の「心の訓練」にも通ずる良い心の育て方であり、法王猊下ご自身が実証し続けている慈悲の育て方と言えます。

一人ひとりが慈悲を育てる未来に、必ずより良い世界が開かれるという、法王猊下の揺るぎない確信が伝わってくる絵本です。心を育てるのは子どもだけではありません。大人もじっくり読みましょう。

ナビゲーター/岡澤慶澄(スーパーサンガ幹事)