皆さま、新型コロナウイルスの影響でご不便な日々が続いていることと存じます。まさかこんな事態になろうとは全く想像もしておりませんでした。当会でも企画していた3月の集会や恒例の『キキソソ・チベット祭り』が中止になり、いまだに先行きが不透明です。

テレワークや自宅オフィス化などが一気に進んで、人と人との関わり方・暮らし方や考え方も変わりつつありますね。首都圏を引き払って郊外に移住して、週に1〜2度だけ出社するというような勤務様式を選ぶ方もおられますし、本社を淡路島に移転する企業などもあるようです。学校教育にしても一般校が通信制と同じような形になりました。地元の姫路では全寮制の高校がしばらく閉校するようです。私共の圓教寺の参拝者は8月の時点で35%減、4・5月の頃は90%減でした。

これを機縁として圓教寺では毎日正午からご祈祷のライブ配信を始めました。先日、ネットでご祈祷の中継を見た方が実際にお寺に来て参列くださり「とても大変なことをされていることが分かり感激しました」とお声をかけてくださったのですが、お祈り自体は参拝者が来られなくてもやっていることなので、実は特に大変ということはありません。圓教寺はライブ配信をすることで気づいていただけますが、皆さんのお宅の近くのお寺さんでも朝晩のお勤めなど毎日されていることです。昨今は日常で祈りの姿を目にする機会がなく、僧侶もあえて「やってます」と主張することもないので「坊さんは葬式と法事でしか見ない」という印象を持つ方がおられるのでしょうね。ライブ配信がお寺や僧侶の日常を知っていただくきっかけになったかもしれません。このように日本中の寺院が毎日祈っていることで守られているものがあるはずですし、普段は意識していなくても多くの寺院や信者さんたちが手を合わせていることが、人々の暮らしの安心感を支えている面があるように思います。

コロナをきっかけとして、坊さんにとっては、祈りを生活に活かすということを皆さんに伝えるチャンスでもあります。インターネット配信の普及によって「誰かが祈っている姿」を目にする機会が増えたことは不幸中の幸いです。ダライ・ラマ法王猊下もご法話をネット配信されておりますが、お身体への負担が減るし、中国政府からの妨害や渡航先への圧力を避けることができて一石二鳥かもしれませんね。

 

日本人は古来から「冠婚葬祭」という人生の節目の儀礼や年中行事などの繰り返しの中で、文化や伝統をはじめ「命のつながり」のようなものを身につけてきた民族です。それが近代化によって失われつつあります。

当会の会員さんには香港のことをチベットに重ね合わせて見ておられる方も多いと思いますが、一般の方はどれほどピンと来ているでしょうか。BLM抗議の問題についても、日本にはそれほどアフリカ系や南米系の方がおられないので、なかなか意識しづらいですが、世界的には私たちも「カラード(有色人種)」です。実際、日本人は日常的に自分がどの(人種)グループに入るかということを意識することがありません。大正12年の関東大震災の時、カナダの黒人コミュニティが義援金を贈ってきてくださったというお話があります。当時のことなので現在よりも更に社会的地位は低かったことだと思いますが、それでも「同じ有色人種」である日本人の苦難に対して心を寄せてくださったわけです。島国だからか日本人は外国への連帯感が希薄ですが、多くの国が日本に対して恩義を感じていたり共感を持ってくれています。

日本人はとにかく勉強不足ですね。香港情勢は、いわば「北海道がロシアになる」ぐらいに大変なことです。

SNS等で目にする暴力的を「ひどいな」と他人事で見ていてはいけません。マスメディアが事実をそのまま報道してくれればいいのですが、印象操作が含まれることが多々あるように感じます。大手メディアは報道の自由を制限されているようですが、記者クラブなどで堂々と抗議すればいいと思うのですがね。日本政府も何か事情があるのか中国政府に対して強く非難できないようですし、本来は政府にできないことを新聞社はじめマスコミがするべきだと思います。我々がチベットや香港のために何らかの行動を起こすにしても、マスコミが動いてくれれば大きな力になるだけに残念です。中国本土では民衆が政府に対して異議を唱えないのは、強圧的な圧政があるので黙らざるを得ないわけですが、香港も同じ状況に入ってしまうのでしょうか。いずれ落ち着いて再び外国人が入れるようになるでしょうけど、その時はチベットと同様に中国が完全に支配した状況に陥ったということかもしれません。

昨今は、発展途上国であってもインターネットとスマホが普及しており、どんな辺境であっても連絡を取り合ったり、その国の様子をオンタイムで見ることが出来る時代です。ところが、チベットやウイグルの様子は全く伝わってきません。この点だけでも、かの地がいかに異常なことであるかが分かると思います。中国政府はインターネットを徹底的に監視しており、支配されている少数民族はもちろん、弾圧している側の人民解放軍や武装警察や一般の漢民族たちもネットを通じて「世界の人々が中国をどのような目で見ているのか」ということを知ることができないのです。

 

とにかく今は国内外ともにコロナ禍で不自由ですので、できることをできるなりにやるしかありません。宗教者はまず祈ることです。「祈るだけで何になる?」「祈っても仕方ない」というような考えが大手を振って歩いているような昨今ですが、私たちは「誰かが日々祈ることによって守られているものがある」ことを信じ、これからも祈りを根本としてチベットの問題を伝えてまいります。

2020年9月 書寫山圓教寺にて
スーパーサンガ代表 大樹 玄承