『チベットの主張』書影

『チベットの主張』書影

焼身抗議とは現在に対する絶望の炎なのか未来に対する希望の光なのか。

ダライ・ラマ14世は言う「無関心、ことに他人に対する無関心は、最悪の欠点です」と。

本年7月6日、ダライ・ラマ法王の85歳の誕生日に集広舎より『チベットの主張─チベットが中国の一部という歴史的根拠はない─』が刊行された。内容については副題に全て表されているのだが、この現代においてある民族の主張を表明するのに、このように出版という形をとるしかなかったというところにもこの問題の本質がある。

9章に分けて語られているチベットの現実はどこを読んでも暗澹たる思いになるが、今の状況が突然起こったわけでなく、1世紀にわたって徐々に変化していったことが非常にわかりやすく貴重な証言や資料をもとに解説されている。と同時にそのどこかで食い止めることはできなかったのかという思いも湧いてくる。これはもちろん今行動しないことが未来の状況を生み出すことと同意義でもあるのだが。

この本を読んで初めて知ったのだが、中国によるチベット文化の弾圧についてこれまで多くの国際団体やときには国が意見書や非難声明を出している。しかし事態は改善するどころか悪化の一途をたどり、焼身抗議が続いていることは周知の通りである。

歴史を正しく学ぶこと、今の状況を正しく知ることは未来を良くするための大切な条件であるが、この本にはその両方が余すところなく描かれている。しかしこの本に載せられた証言や資料を伝えるのには想像を絶するほどの苦難があったことにも思いを馳せたい。多くのチベット人が「私たちの話を一人でも多くの人に知ってもらいたい」と述べていることは、チベット人と接した人は必ず耳にしているであろう。その点において焼身抗議はまさに命をかけた我々に対するメッセージである。

ダライ・ラマ法王は85歳の誕生日に次のようなメッセージを出している。

「利他の心である菩提心を育むことは私の主な修行です」

この本を読み仏教徒として、いや人間として利他に生きるという意味をもう一度考え直してみたい。

評/大西 龍心(観音院住職、スーパーサンガ幹事)

 

チベットの主張
〜チベットが中国の一部という歴史的根拠はない

編・著:チベット亡命政権
日本語訳:亀田 浩史
日本語版監修:ダライ・ラマ法王日本代表部事務所

集広舎、2020年7月6日刊、272ページ、ISBN 978-4-904213-94-0、本体1,818円+税

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