このコーナーでは、様々な書籍をご紹介します。今回は、チベットを舞台にした漫画をご紹介。読書が苦手な方も楽しくチベットの雰囲気を味わえます。

テンジュの国(全5巻)

「テンジュの国」
(著)泉一聞
講談社(KCデラックス)
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〔第1巻〕
2018年3月9日 発売
並製192ページ
560円(税別)
ISBN: 978-4-06-510976-2

18世紀のチベット、山間の小さな村に住む医者見習いのカン・シバの元に、婚約者のモシ・ラティがやってきた。カン・シバの家族や友人、村を訪れる人々とともに描かれるラブコメディがこの本『テンジュの国』。

チベット関連の本というとどうしても深刻な話題の本が多いが、そんな中でこの漫画はひたすら明るく優しい。中でも婚約者モシ・ラティの可愛さと健気さ、カン・シバの温かさは読んでいるものの心まで洗ってくれるような爽やかさを感じる。染料で手が染まり嫌われることを心配するモシ・ラティに、カン・シバは「いっぱい染まったら、それだけラティが努力したってことなんですから」と声をかける。こんな言葉をかけることができたら世の中はどんなに笑顔であふれることだろう。

互いに惹かれあっていく二人の姿を中心にストーリーは進むが、その二人を取り囲む人々も非常に魅力的である。その鍵となるのは登場人物がみんな深い宗教観と信念を持って暮らしているからではないだろうか。

カン・シバの父デレク・カンドは治療した者から、大きな立派な家に住んでいることを指摘された時に言う。「医者だから財産があるんじゃなくて、他人に使える財産が多少あるから医者になるんだよ。」この言葉によく表されているように、この本に出てくる人々はひたすら人のために生きている。そしてその生活に満足し「幸せになるために祈るのではなく幸せだから感謝して祈る。」

中にはチベットらしく鳥葬や巡礼、死の話も出てくるが、決して教訓めいた漫画でなく、このように暮らす人たちがいたのかと言う驚きであっという間に読み終えてしまった。このように善く生きたいなと思うが、カン・シバは笑ってこう言うんだろうな。「僕はそんなに褒められるほど善い人ではないですよ。ただ、平穏の方が好きなだけです。」

チベット特有の意匠や装飾の美しさも必見であるし、動植物をはじめチベットの文物、風習についても細かく描かれ、この漫画を読むだけで遠いチベットという国を身近に感じるようになるかも。

『テンジュの国』の意味は最後にわかります。

ナビゲーター/大西龍心(スーパーサンガ幹事)