令和3年3月13日(土)に藤次寺で開催された、スーパーサンガ関西主宰の「チベットを知り、祈ろう@大阪2021」では、当会顧問である三宅善信師に特別講演を行っていただきました。
本稿は講演内容をスーパーサンガ編集部でまとめた要約です。

 

講演を聞く出席者たち

講演を聞く出席者たち

 

特別講演『ダライ・ラマ法王と非暴力』

現在、ミャンマー情勢が酷いことになっています。2007年秋に国際宗教同志会の先生方をダラムサラにお連れして、ダライ・ラマ法王と一時間半ほど親しくお話をさせていただく機会がありましたが、ちょうどその時にもミャンマー情勢が混乱していたので、法王様と国際宗教同志会で共同声明を発出し、NHKなどでも取り上げられました。

ダライ・ラマ法王が、20世紀のマハトマ・ガンジーと並ぶ「非暴力」を象徴するような方であることは、誰もがご存知のことと思います。また、只今の法要で六字真言(オンマニペメフム)をお唱えしたように、法王は観世音菩薩の生まれ変わりだと言われています。

観世音菩薩の発する無限大の「慈悲」の心こそ、非暴力の根源であります。仏教では、「慈悲」はマイトリ(maitri/楽を与えること)とカルナ(karuna/苦しみを抜くこと)で構成されていると考えられています。つまり、「ああ可哀相だ」と同情するだけではなく、全体の生命ということを考える力を持ったものなのです。

一方、キリスト教では「愛」という言葉を使いますが、これは「執着」というネガティブな意味を持つ仏教の「愛」とは少し違います。ローマ・カトリック教会ではカリタス(caritas)と言い、かつて16世紀の日本のキリシタンたちがこのラテン語を「お大切に(take care)」という翻訳をしたように、カリタスには「相手に関心を払って、関わっていく」という意味が含まれています。フランシスコ教皇が2015年に回勅『ラウダート・シ(Laudato Si’)』を発せられましたが、これも「環境問題を始めとした様々な世界の問題に積極的に関わっていきなさい(Praise be to you)」と述べられたということですから、大変意義があることだと思います。

昨今の社会問題の一つに「いじめ」の問題があります。いじめは、いじめっ子といじめられっ子だけでは成立しません。無関心を装う大多数の人がいじめを容認していることによって、いじめが成立するのです。

このことはチベット問題を始めとしたチャイナ周辺の人権問題についても言えます。

かつて亡命されたダライ・ラマ法王が世界に訴えられたことで、私たちはチベットの状況について知ることができました。また最近では、ウイグル人への苛烈な弾圧についても、聞こえてくるようになっています。香港情勢も同じ。そういったことに対して、私たちが余所事と無関心を決め込むことは、それを容認することに他なりません。

人民解放軍の最新式戦車のことをご存知でしょうか。現代の各国陸軍の主力戦車は、火力が強く装甲が分厚くて平たい形をしているのですが、人民解放軍の戦車はその反対です。装甲が薄く、大砲も弱く、ゴツゴツしています。これは、敵国の戦車と戦うために作られたものではなく、自国内の人民を制圧するために作られたからです。

私は常々、中国共産党を批判していますが、それは彼らが共産主義を掲げているからではありません。暴力革命によって成立した政権は、暴力によって自分たちが支配する現状を維持しようとする政治体制であるから批判しているのです。

ダライ・ラマ法王が勧められている(慈悲から生まれる)非暴力による平和を実現するためにも、皆がチベット問題に関心を持ち、積極的に意思を発信していくことが大切だと考えています。

要約/編集部にて
写真提供:レルネット