この会報が届くころには二度目の北京オリンピックも無事に終わっていることかと思います。一度目の北京オリンピックが開かれた2008年は、チベット全土で多くのチベット人たちが自由を求めて立ち上がった年でした。確認できているだけで二百人以上のチベット人たちが中国政府の治安部隊や武装警察によって命を奪われ、およそ六千人のチベット人が拘束されました。
二度目の北京オリンピックが開かれた今年は、幸いにもそのようなニュースは聞こえてきていません。現在のチベットは2008年と違い弾圧下にないということでしょうか。残念ながら答えは否です。14年の間で、チベット人たちが自由を求めて声を挙げずにすむ環境になったのではなく、チベット人たちは声を挙げることすらできない環境になったのです。
2010年には、それまでチベット語での教育を受けることが許されていた東チベットの学校でも、学校教育の現場でのチベット語の使用が禁止されました。自分たちの言葉が奪われることに抗議して数千人の中学生たちがデモや抗議活動を行い、多くの逮捕者がでました。
しかし、そのころは少なくとも抗議行動をとることができました。チベット人たちによる抗議行動が世界に報じられるようになると、体面を気にする中国政府は対策を行いました。それは抗議が起きないようにチベット人たちの要求に向き合うことではありませんでした。中国政府が選択したのは抗議活動など行えないようにチベット人たちが自由に集まることや移動することを制限することでした。中国政府によって自由に集まって相談することすらできない状況におかれたチベット人たちは、自分ひとりで実行できて、なおかつ世界に強く訴えかけることができる「焼身抗議」という手段をとるようになりました。二回の北京オリンピックの間に百五十人以上のチベット人たちが自らの命を文字通り燃やしました。これは、ただ単に命を捨てたというだけのことではありません。敬虔な仏教徒であるチベット人にとって自ら命を絶つ行為は、何度も輪廻を繰り返して積み上げてきた徳をも犠牲にする行為なのです。そのことの重さを想像してみてください。
最近では、二回目の北京オリンピックを目前にした昨年から今年初めにかけて、チベットのカム地方、中国の行政区分でいうところの四川省甘孜蔵族自治州において、中国政府は大仏や多数のマニ車を破壊しています。それだけにとどまらず、自分たちの心のよりどころである仏像やマニ車の破壊に対して反対の声をあげた多数のチベット人たちを検挙し、検挙された人々の多くは現在も消息がわかっていません。消息不明となったチベット人たちは、おそらく「再教育収容所」に送られており、今まさに肉体と精神の両方を苛まれているとみられています。
スーパーサンガは、2008年3月に自由のために立ち上がったチベット人たちが中国政府によって無残に踏みにじられる姿をみて、同じ仏教徒として、同じ人間として、黙ってはいられないと感じた僧侶の方々によって結成されました。しかし残念ながら、この14年の間に私たちは十分な成果をあげることができたとは言えません。そして、私たち一人一人は年齢を重ねてしまいました。年齢を重ねたことに良い面もありますが、私も含め多くの会員の方は、体力の衰えであったり、様々なしがらみができてしまったり、あるいは十分な成果をあげられないまま時間だけが経っていったことで情熱を失ったりと、スーパーサンガができた当初にくらべて熱心に活動することができなくなってしまっています。しかし、5年後は私もみなさんももっと動けなくなります。10年後はさらに動けなくなります。チベットには助けが必要です。今、動くしかありません。みなさんチベットのため、スーパーサンガにもう一度力を貸してください。スーパーサンガ幹事 太田秀雄
(本コラムはスーパーサンガ会報誌2022年春号に掲載さたものです)